Morzart Symphony Orchestra
モーツァルト・シンフォニー・オーケストラ

マエストロ・ペンの  
   ある日のモーツァルト (1)

            5月19日

 1764年5月19日、8歳のモーツアルトはロンドンのバッキンガム宮殿において、連日国王ジョージ三世の御前で演奏しています。二日目になるこの日は、クリスチャン・バッハ等の作品を初見で演奏し、皇后のアリアの伴奏までこなし、両日とも24ギニーという謝礼を受け取っています。

 よく外国語を堪能に話す方は、日本語で物を考えそれを訳すのではなく、最初からその言葉で考えるようになる、と言いますね。ふ〜む、私のように喋れた気になっているだけの人間には羨ましい限りですが、モーツアルトはみるみる英語も仏語もマスターしたそうですから、頭脳の回路が元々常人とは異なっているのでしょう。楽譜を見て、脳が指に即座に指令を出して動かす、というのが神経的な回路でしょうが、モーツアルトは多分、目と指が直接繋がっていたんですよ。それにしてもまだ未発達に違いない8歳の筋肉が見事に駆使されているという現実は、目にした人々ならずとも驚き、微笑み、中には自分の才能が遠く足下にも及ばない事にショックを受けたでしょう。1曲毎に賞賛の嵐がこのチビに降り注ぐのです。そりゃあ自意識過剰な人間になろう、てもんです。後の苦労はただ一点にその理由を見いだせます。それは、才能があり過ぎた、という事です。まあ羨ましい話ではありますが。
 ちなみに翌5月20日モーツアルトは熱を出し、10日程寝付いてしまったようです。ここらは普通のガキやったんやね。本人には申し訳ないけど、ちょっとほっとしたりします。旅ばかりの生活は、モーツアルトの体躯を正常には発育させなかった、と言われています。つまり背は低く、痩せっぽちだったのです。晩年になると荒れた生活が彼を太らせた・・・というよりたるませたように見えますが、生涯に渡りモーツアルトは度々病に倒れています。

 時折テレビに天才少年、てのが登場します。計算力が並外れていたり、チビのくせに異様に良い音程とコブシで演歌を歌ったり・・・。沢山のプチモーツアルトは日々この世に現れているんですね。しかし彼の生涯を知っていると、そんな子供達が幸せに育てばいいなあ、といつも余計な心配をしてしまいます。でもまさか毒殺される心配はないでしょうがね。

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