Morzart Symphony Orchestra
モーツァルト・シンフォニー・オーケストラ

マエストロ・ペンの  
  ある日のモーツァルト (1)

            7月3日

 1778年7月3日、モーツアルトと共にマンハイム・パリを旅していた母アンナ・マリアは、夜10時過ぎに息を引き取りました。慣れない上に、暖房の薪さえけちった節約旅行故の疲労が重なって体調を崩した結果でした。22歳になっていたヴォルフガングは、数人にこの知らせを送ったものの、父親には重体であるとだけ伝え、母の死を知らせたのは6日も過ぎてからでした。この間のやりとりの手紙にはあの有名な「死はこの数年来私の良き友人です。」というあれが書かれます。翌日4日、母親はパリのサン・トゥスタッシュ教会の墓地に埋葬されます。
 パリ1区にあるサン・トゥスタッシュ教会は、白亜の殿堂といった観のある大きく美しい教会です。広々とした教会前のスペースには様々な彫刻等のオブジェが設置してあり、巨顔の彫刻が一際異彩を放っています。最寄りの地下鉄はレアル駅ですよ。もう随分昔に一度だけ訪れましたが、教会に入った途端耳に飛び込んで来たのは、モーツアルトの名作中の名作「アヴェ・ヴェルム・コルプス」でした。なんという偶然!出来過ぎですよ。恐らくは教会付きの合唱団でしょうか、ちょうどその曲を練習していたのです。電撃に打たれたような感覚というのはああいうのを言うんでしょうね。放心したように椅子に座って聴きました。午後の明るい日差しがステンドグラスから差し込んだ内部は、暗い事の多い教会としては異例に明るいこの教会の白い壁をより明るく照らし、人もまばらで静かな教会内部の隅々にまで光を届けていました。まるで一瞬を切り取ったように、全てが静止して見えましたね。私は旅にカメラを持ち歩く趣味がありませんが、こんな鮮烈な風景はいつまでも脳裏に焼き付いて、記憶というフィルターで年とともに美化されて行きます。だから、あの教会の内部はホントにそんなに明るかったのか、いささか疑問ですよ。だって教会は祈りの場ですから、沈思黙考できるような、とても個人的、精神的な暗さが支配しているのが普通ですからね。

 パリの教会は美しく、思い出深いものばかりです。特に泊まっていた安ホテルの傍にあったサクレクール寺院は、私のパリの思い出の扉ページを飾っています。ああ、なんか泣けるなあ。青春だったんだなあ。

モーツァルト・シンフォニー・オーケストラ 2003年創立     ホームページ 2008年開設     無断転載禁止