Morzart Symphony Orchestra
モーツァルト・シンフォニー・オーケストラ

マエストロ・ペンの  
   ある日のモーツァルト (1)

            3月6日

 1789年3月6日、モーツアルトは友人のヴァン・スヴィーテン男爵の注文によるヘンデルの「メサイア」の編曲版を完成し、エステルハージ伯爵の屋敷で初演しています。
 ヘンデルの名作オラトリオ「メサイア」は、現在では原点版で演奏するのが当たり前ですが、実は沢山の編曲版が存在していまして、モーツアルトの編曲も有名なその一つです。子供時代私の入っていた田舎のジュニア・オーケストラは、毎年年末に「メサイア」の公演をやっていました。その時使われていた楽譜はプラウト版と言われる大型オーケストラ用の編曲版でした。多くの音符が書き足されており、その音で完全に覚えてしまったガキの私は、初めてオリジナルを聴いた時は正直「メロディが無い!」と思ったものです。今時プラウト版なんかで演奏すると笑われるほどすたれましたがね。
 初めて「メサイア」を指揮した時、原点版の質素な響きをどう作り上げて良いか分からなかった駆け出しの私は、迷わずモーツアルト版を取り上げました。この編曲は、プラウト程では無いにしろ、オリジナルよりは遥かに充実したオーケストラになっていますが、今の目で楽譜を見たら、やはり少し恥ずかしくなりますね。いくら天才モーツアルトのものとは言え、余計な音の宝庫ですからね。オリジナルの質素さはやはり最高です。
 この時期モーツアルトは幾つものヘンデルの作品を編曲しています。恐らくは糊口を凌ぐ為に止むなく引き受けたのでしょう。それでもこの作業から後に(と言っても後僅か2年の生涯ですが)ある名曲のテーマを発想します。あの白鳥の歌「レクイエム」の「キリエ」の壮麗で胸を打つフーガは、「メサイア」第2部の22番「そして主はむち打たれ、我らは癒されたもう」と同じ主題です。モーツアルトのはヘンデルよりもかなり複雑な展開を見せますが、どちらも悲壮な緊張感に胸打たれる名曲です。

 小学生の私は、この主題をルンルンと口ずさみながら登下校する、かなり高級なずれ方をした御坊ちゃまだったのですよ。ふふふ。もちろん意味も知らずにですがね。それにしても人の曲を巧みに自分の物にするもんだなあ。「魔笛」の序曲もクレメンティのですからね。まあ名曲になった方が勝ちですよね。

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